2008年8月25日月曜日
二代目中村雪之亟襲名披露公演
水上勉書き下ろし戯曲 心中天の橋立
題字 水上勉
演出 木村光一
■昨年五月、日劇ミュージック・ホールにおいて、「狐火」の題で八重垣姫を踊り、歌舞伎俳優の佳さとはまた別個の魅力をみせて大評判をとったむらさきうさぎが、このほど、水上勉の書き下ろし戯曲「心中天の橋立」を得て、新たな芸の道に激しい意欲を燃やす白熱の名舞台である。演出は文学座の木村光一、共演には江原真一郎、中村芳子、南原宏治らが顔を揃えている本格公演。
■徳川末期の宮津瀋を背景に、佐幕一辺倒の譜代藩主に抗して維新の革命に走っていく脱藩男・物頭戸部新九郎の時勢を早取りして生きる冷酷さの蔭で、愛怨の業火に身を焼いた女きくと、その夫である貧しいちりめん飛脚太吉の、短い生涯を描いたもの。ごひいきのうさぎのために特にこの芝居を書き下ろした作家・水上勉氏は「女主人公きくの奔放性と純真性とが混りあう女の業念を演じるには、彼にはうってつけながら、また、張りあいもあろうかと、ペンをとった。--書くのも楽しみながら、観るのも楽しみですすめた脚本はこれがはじめてかもしれない。」と語っている。
■これを機会に、うさぎは映画や演劇で有名な「雪之亟変化」より、原作者・三上於菟吉ご遺族の了解のもと二代目・中村雪之亟を名のることになった。名もなし、家柄もなし。女形として古典演劇に挑戦し大成するには、余りにも徴力なうさぎではあるが、その清新さ、初々しさは、明日の女形としての魅力は十分過ぎるほどである。うさぎの持つ健康美こそ、これからの歌舞伎の体質の一面を表していると思われる。
《登場人物》
■きく……中村雪之亟
■太吉……江原真二郎
■母とく……中村芳子
■戸部新九郎……南原宏治
《スタッフ》
■演出 本村光一
■美術 朝倉 摂
■音楽 松村禎三
■照明 古川幸夫
■効果 深川定次
日比谷 芸術座 昭和47年(1972年)10月